宮古島に中国人観光客が急増~クルーズ船の光と影~

ここ数年、宮古島に中国人観光客が急増しています。私が移住した5年前、宮古島に中国人はほとんどいませんでした。

2016年頃から急増した宮古島の中国人観光客。今や宮古島のビーチで中国人観光客を見ない日はないと言っても過言ではありません。

スーパーやドラッグストアには、中国人観光客を乗せた大型観光バスが何台もとまり、たくさんの中国人が店内で大きな声で話しながら買い物しています。

中国人が増えることで島には一定の経済効果が見られますが、島の人たちの間では「もうこれ以上来ないで」という声が広がりつつあります。

中国人観光客が多い理由


中国人観光客が多い理由はただ一つ。中国からのクルーズ船が宮古島の港に寄港するようになったからです。

多い時には乗客4,500人、乗員2,000人を乗せたクルーズ船が、中国からやってきます。人口5万4000人の小さな宮古島に、こんなに大きな船が来るのですから、ビーチや街中に中国人が溢れるのも当然です。

私が移住した5年前、宮古島の港に寄港するクルーズ船は0隻でした。当時は宮古島の観光客数は年間40万人台。石垣島の半分にも満たない数でした。

当時の中国からのクルーズ船の定番ルートは3泊4日ので沖縄本島と石垣島を周遊するというもの。

石垣島に追い付け追い越せで観光客を増やそうと躍起になっていた宮古島市。クルーズ船誘致に力を入れ、2018年には石垣島と同程度の寄港数を達成しました。

宮古島へのクルーズ船寄港はここ3年で急増しています。2016年度に85隻。2017年度には147隻。2018年度には150隻以上の寄港が見込まれています。

観光関係者に聞いた裏話

宮古島には10年ほど前、年間10隻ほどですがクルーズ船が来ていた時期がありました。石垣島への寄港数が増える一方で、宮古島にはクルーズ船が来なくなりました。クルーズ船が宮古島から撤退した理由の一つは、バス会社の態度が悪く、観光客に不人気だったことだそうです。なんとも宮古島らしい理由です。

宮古島に再びクルーズ船が来た理由は、宮古島が魅力的だったからではなく、石垣島に断られたからだという話もあります。石垣島にも宮古島と同様年間100隻以上のクルーズ船が寄港しています。中国でクルーズ船旅行の人気が高まり、石垣市にさらに多くのクルーズ船受け入れを打診したものの断られ、仕方なく宮古島への寄港を決めたとそうです。

来ているのは富裕層ではない

クルーズ船といえば、富裕層だけが利用できる豪華客船というイメージがありますが、実はそうではありません。宮古島で海水浴やショッピングをしている中国人観光客をよく見てみると「すごくお金持ち」という雰囲気の人はほとんどいません。

多い時には4,500人もの乗客を乗せてやってくるクルーズ船。スイートルームもあれば、安い船室もある。安いプランだと1泊の値段は7000円前後。とても庶民的な価格です。

富裕層ではなく、一般的な家庭の中国人たちが家族旅行で来るケースが多いです。

クルーズ船で宮古島に来るのは、全員が中国人だと思われがちですが、実は違います。クルーズ船の7割は中国の廈門や広州から、3割は台湾からやってきます。

中国から船が入る日は中国人が多く、台湾から船が入る日は台湾人が多い。全体では中国人が7割。台湾人が3割。インド人、マレーシア人、香港人が乗っていることもあります。

島にお金は落ちているか?

クルーズ船の寄港で急増している宮古島の中国人観光客。島には一定の経済効果はみられますが、恩恵を受けているのはごく一部の業種に限られます。

観光バス

中国人観光客の恩恵を一番受けているのはおそらく観光バス業界。クルーズ船が寄港する日には、港に観光バスが列をなします。その数30~50台ほど。

宮古島の観光バス業界は、長年、地元企業の協栄バスと八千代バスの2社独占体制でしたが、中国人観光客をターゲットに島外からもバス会社が新規参入しています。

中国人観光客に人気なのはクルーズ船会社と日本の旅行会社(JTB)がタイアップして企画する公式バスツアー。3~4時間で宮古島のビーチを周遊し、食事処とショッピングモールに案内するツアーです。

バスには運転手1人と中国語が話せる通訳バスガイドが1人乗ります。バスが50台ということは、運転手が50人、通訳が50人必要ですが、島内だけではもちろん足りません。クルーズ船が寄港する日には、観光バスの運転手や通訳が沖縄本島から派遣されます。

クルーズ船が入る日、観光バスはフル稼働状態。

地元2社の観光バスはもちろん、島外から新規参入したバス会社もここぞとばかりに中国人観光客を乗せて島内を走ります。

観光バス業界は絶好調。特に、飛行機で来る観光客をターゲットにしたツアーも好調な地元の2社は、日本人ツアーと中国人ツアーの二刀流で、かなり儲かっています。

タクシー

中国人観光客の第2の選択肢はタクシー。クルーズ船が入る日、港では中国人観光客がタクシー待ちの長い列を作ります。

宮古島のタクシーの数は全部で185台。クルーズ船の乗客数を考えれば、タクシーが少なすぎます。タクシー待ちの列に30分以上並ぶ中国人観光客もいます。

沖縄本島では、クルーズ船が入る日には500台のタクシーが中国人観光客に対応します。宮古島には185台しかタクシーがありません。どう考えてもタクシーが足りません。

タクシードライバーは、日本人を乗せるより、中国人を乗せた方が儲かります。日本人観光客を宮古空港から市街地まで乗せても1000円ほどですが、中国人観光客を乗せて島内を周遊すれば3時間で1万円。

ビーチに連れて行ったり、ドラッグストアに案内したり。スマホの通訳アプリを使って会話しながら接客しているといいます。

スーパー・ドラッグストア

観光バスが立ち寄るスーパー・ドラッグストアにはかなり経済効果が見られます。

観光バスが止まるのは、マックスバリュ宮古南店があるショッピングエリアと、マックスバリュ西里店があるショッピングエリアの2ヶ所。

クルーズ船が入る時間帯、マックスバリュはどちらの店も中国人観光客で溢れます。マックスバリュに隣接するドラッグストアや電気店、洋服屋も中国人観光客が多いです。「免税店」の表記がある店や、中国語の案内表示がある店も増えてきました。

中国人観光客は「沖縄旅行」「宮古島旅行」という感覚では宮古島に来ません。「中国から近い日本を旅する」という感覚で宮古島にやってきます。通訳の人に「ソメイヨシノが見たい」とか「お寺に行きたい」と話す中国人もいるそうです。

「日本旅行」という感覚で宮古島に来るので、売れるのは沖縄みやげではなく、日本製の電化製品や化粧品など。地元の特産品はほとんど売れません。

数年前に話題になった「爆買い」はほとんどみられません。大きめのレジ袋1~2個を持って船に帰ってくる人が多いです。

大型バスが止まらない店には中国人観光客は少ないです。例外はドンキホーテ。電化製品や化粧品、おみやげがまとめて買えるので、タクシーで来る中国人が多いです。

中国人をターゲットにした免税店

サンエー宮古ショッピングタウンの向かいにある免税店「ミヤコプラザ」。クルーズ船の急増に合わせて2016年にオープン。日本製の電化製品などを販売しています。

船が入る日、「ミヤコプラザ」の近くには、観光バスが列をなして止まります。おりてくるのは大量の中国人観光客。通訳のガイドに引き連れられ、店の中へ姿を消していきます。

外から店の中は見えません。扉が開いた時に隙間からのぞくと、日本製の電化製品や化粧品のポスターが見えます。店の中は中国人でごった返しています。

「ミヤコプラザ」は中国人観光客が島外企業にお金を落とす典型的なパターン。多い時には5台の観光バスが止まり、300人ほどが店に押し寄せます。

なぜこんなにも多くの中国人がこの店で買い物をするのか。私も不思議でなりませんでした。

実は「ミヤコプラザ」は全国で同じような手法で中国人観光客を集めている、いわくつきの免税店。

「ミヤコプラザ」のグループ会社にはバス会社があります。このバス会社が、JTBの公式ツアーより安い価格でツアーを提供し、「ミヤコプラザ」に乗客を運んできているのです。

宮古島の観光関係者はこの「ミヤコプラザ」に頭を悩ませていて、本音では除外したいと考えています。ただ、違法営業をしているわけではないため、どうすることもできないのが現状です。

飲食店

観光バスがツアーで立ち寄る飲食店は、中国人が利用する時間帯は貸切になります。よく使われるのは「ばっしらいん」「あぱら樹」「いちわ」など。地元の人もよく使う店なので、お昼を食べに行ったら中国人で貸切だったということも多いです。

貸切の時間帯には、次々に観光バスが止まり、中国人観光客を降ろしては乗せていきます。店側はいちいち注文をとらず、同じメニューを提供。中国人が来る日は、少ない手間でまとまった稼ぎがあります。

観光バスが止まらない飲食店にも中国人がちらほら見られます。「寿司が食べたい」「そばが食べたい」という中国人の要望に答えて、をタクシードライバーが案内して来ます。

島民の反応は?

宮古島の人たちの気質は、来るもの拒まず去るもの追わず。島の経済発展につながりそうなものなら何でも受け入れます。

観光客が少ない時代は、農業がメインだった宮古島。決して豊かな島ではありませんでした。宮古島は観光客から見れば「リゾート地」ですが、私が移住して感じるのは良くも悪くも古い考えが残る「田舎」

「建設業が儲かれば豊かになる」「観光客が増えれば豊かになる」という考えの人が多いです。

「中国人でも日本人でも、島にお金を落としてくれるならたくさんの観光客に来てほしい」というのが島の人たちの基本的な考え方。

ただ、中国人観光客が来ても地元企業は儲からないという構図が見え始めていて、島の人たちの間でも「もうこれ以上来ないでほしい」という考えが広がりつつあります。

声が大きい

文化なので仕方ないと言われればそれまでですが、中国人は本当に声が大きいです。のんびりとした空気が流れる沖縄の離島、宮古島では、都会以上に中国人の声の大きさが目立ちます。

宮古島の美しいビーチを散歩して心を落ち着かせようと思ったのに、ビーチで中国人が大きな声で会話していて、逆に心をかき乱されたこともあります。

先日砂山ビーチで、携帯用スピーカーから爆音で音楽を流しながら歩いている中国人を見かけました。さすがに勘弁してほしいと思いましたが、何も言えませんでした。

市街地にあるオシャレで静かなカフェにも中国人が来はじめています。「静かに食事させて」と内心で思いながら、何も言えずにそそくさと店を出たこともあります。

タクシー不足が深刻

宮古島のタクシーは観光客の移動手段であるだけでなく、市民の生活の足でもあります。
中国人観光客の急増で一番困るのは、市民がタクシーを使えなくなること。

クルーズ船が来る日、市街地からタクシーが消えます。病院に行くためにタクシーを呼んでも来てくれません。車を運転できない高齢者は本当に困っています。

普段なら30台ほどタクシーが待機している宮古空港のタクシー乗り場からも、タクシーが消えます。空港のタクシー乗り場にタクシーが止まっていないなんて、日本中探しても宮古島以外にはないと思います。

クルーズ船が止まる港の近くにタクシー乗り場が整備されていないことも課題です。中国人観光客は平良港マリンターミナルの前でタクシーを待ちます。ここはタクシー乗り場ではありません。中国人を乗せるタクシーは公道に行列で駐車しています。

レンタカー事故が多い

中国人は台湾人に比べると国際免許証発行のハードルが高いです。そのため、宮古島でのレンタカー利用は台湾人が多いですが、中国人もレンタカーを利用しています。

宮古島ではレンタカー絡みの事故が増えています。宮古島警察署のまとめでは2017年に発生した物損事故の半分近くはレンタカー絡み。

レンタカーの台数自体が増えているので日本人観光客の事故も多いですが、中国人や台湾人が運転するレンタカーの事故も目立ちます。

地元で危険だとされている交差点で一時停止を無視するなど、事故にはつながらなくてもレンタカーにヒヤッとさせられることは多いです。

平気でゴミを捨てる

中国人が多い時間帯、スーパーの前にはゴミが散らかります。スーパーで買った総菜をスーパーの前のベンチで食べ、食べもののケースをそのまま放置していく中国人が多いです。

観光バスは乗客が日本人の時と中国人の時で汚れ具合が全く違います。中国にはゴミを持ち帰る文化がないため、中国人が利用したバス内には食べ物のパックやペットボトルなどが散乱しているようです。

トイレの水を流さない

中国人はトイレの水を流さないことが本当に多いです。ビーチなど公共の場所のトイレでも水を流してくれません。

中国には公共施設のトイレを詰まらせると罰金が科される法律があるようです。トイレットペーパーがつまるのを避けるため、中国人はトイレに水を流しません。

公共施設のトイレには中国語で「流してください」の注意書きが増えていますが、なかなか流してくれません。

今後も増え続ける中国人観光客

中国人観光客は今後さらに増えます。宮古島では中国人を呼び込むための2つの巨大プロジェクトが進行しています。

クルーズ船専用バースの整備

これまで以上に大きなクルーズ船が宮古島に寄港できるように、新しくクルーズ船専用の岸壁を整備するプロジェクトです。

プロジェクトを主導するのは国土交通省。宮古島を含む国内の6ヶ所の港に国の予算でクルーズ船専用の岸壁を整備する計画です。

横浜港や清水港など全国区のメジャーな港とともに、この小さな宮古島の平良港がプロジェクトの1ヶ所に選ばれました。

岸壁の整備に合わせて、世界最大のクルーズ船会社「カーニバル社」が岸壁の近くに自費でターミナル施設を整備することになっています。

国との契約で、整備された岸壁は「カーニバル社」が優先的に利用できることになっています。「カーニバル社」の拠点はアジア。中国人の利用も多いです。

岸壁は2020年に完成予定。供用が開始されれば、これまで以上に大きなクルーズ船が宮古島に入ってきます。

初年度は250隻、2026年度には310隻ものクルーズ船が宮古島に来る計画です。

下地島空港に国際線就航

宮古空港から車で30分、伊良部島に隣接する下地島空港に旅客ターミナルが整備され、2019年3月に開業します。

空港の運営会社が国内線LCC、国際線の就航を誘致しています。初年度はジェットスターの成田―下地島便が1日1往復飛ぶことになっています。運営会社では国際線の誘致にも力を入れていて、下地島空港に国際線が飛ぶのは時間の問題です。

宮古空港は国際空港としての機能がなく、冬場の韓国からのチャーター便以外に国際線はありません。下地島空港の開業で宮古島が国際的なリゾート地に発展すれば、中国人観光客がこれまで以上に押し寄せることは十分に考えられます。

バス、タクシーの数を考えれば、宮古島の観光客受け入れ態勢は既にパンク状態。島の未来はどうなってしまうのか。ここ数年の変化のスピードを考えれば、5年後には今とは全く違う宮古島になっていても不思議ではありません。

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