地方創成を目的に、地方の自治体が都会から働き手を受け入れる「地域おこし協力隊」
総務省が2009年に導入して以降、全国の地域おこし協力隊員の数はすごい倍率で増えています。
2009年度に90人だった隊員は2017年度には約5000人。総務省は2024年度には8000人にまで増やす計画です。
地域おこし協力隊を受け入れている自治体の大半は、高齢化が進む過疎地域。地域おこし協力隊として若い働き手を国の予算で確保し、地域の活性化につなげようとしています。
募集をかけてもほとんど応募がない市町村や、倍率が2倍~3倍の市町村が多い一方で、倍率が10倍を超える市町村もあります。
倍率10倍の島
沖縄の離島、宮古島。沖縄本島から西南西に300キロ離れた、人口5万4000人の島です。
宮古島市は2018年に地域おこし協力隊の受け入れを開始。2018年7月に男性1人、2018年11月に男性1人、女性1人を採用しました。
宮古島の地域おこし協力隊の倍率は10倍。全国の市町村の中でもトップクラスに高いです。
2018年11月の採用では、採用枠2人に対して応募者は20人。書類選考で4人に絞られ、面接試験で合格者2人が決まりました。
地域おこし協力隊を募集している市町村の中で、宮古島は圧倒的に知名度が高いです。
宮古島の一般的なイメージは、「過疎化が進む島」というよりは「リゾート地」
地域おこし協力隊に応募するなら、全く知らない辺境の地へ行くよりは、旅行したことがある場所や、知っている場所を選ぶのは自然な流れとも言えます。
宮古島市の地域おこし協力隊の受け入れ条件が他の市町村と比べて特に良いわけではありません。報酬は月額16万6000円。任期は3年です。
圧倒的な知名度、既に移住者が多くいる環境、リゾート地のイメージが、宮古島の地域おこし協力隊の倍率を10倍にまで高めていると考えられます。
過疎化の島
宮古島は観光地でありながら過疎化が進むという、二面性を持った島です。
宮古島の中でもホテルや居酒屋が集中する市街地エリアは人口が増加していますが、その他の地域では人口は減り続けています。
2018年11月に宮古島市に採用された地域おこし協力隊の2人は、島の中でも過疎化が進む地域が担当エリアとして設定されました。
島の北側、パーントゥで知られる島尻地区と、島の南側、友利地区です。
島尻地区は人口約350人の小さな集落。宮古島の中でも特に過疎化、高齢化が進む地域です。集落にあった小さな小学校は2018年に廃校になりました。牛小屋のある家が多く、周辺にはサトウキビ畑が広がります。平日の昼間は、市街地エリアに働きに出る人が多く、お年寄りだけが残ります。
友利地区は人口約600人。集落内の海に近いエリアには、ホテルや別荘が立ち並びます。移住者も増えていますが、住んでいる人の大半は地元の人。島尻同様、平日の日中は、若い人たちは市街地エリアに働きに出ていきます。
宮古島で過疎化、高齢化が進んでいるのは、この2つの地域だけではありません。宮古島と橋でつながる池間島、来間島、市町村合併前に「城辺町」だったエリアは、特に過疎化が進んでいます。
バブルの島
宮古島は今、これまでにないバブルです。2018年頃から島内では「バブル」という言葉を使う人が増え始め、2019年には「宮古島バブル」という言葉が定着しました。
2011年に年間30万人台だった観光客数は2018年に100万人を突破。伊良部大橋の開通、クルーズ船寄港の急増、下地島空港の開業で、リゾート地としての注目度は高まるばかり。
バブルの宮古島には工事現場が溢れています。毎年複数のリゾートホテルが新たに開業。市街地エリアには次々にアパートが建設されています。
市街地エリアでは、賃貸空き物件がなく、家賃が高騰。建設業、ホテル業の人手不足は深刻で、島外から多くの労働者が期間限定で島に移住してきています。
何もない、癒しの島として観光客に人気だった宮古島の風景は、大きく変わりつつあります。
二面性の島
宮古島は、過疎化の島でありながら、バブルの島。
田舎の集落には、以前から変わらない、島の人たちの穏やかな時間が流れます。幹線道路の交通量は増えましたが、集落内の細い道に一歩入れば、そこに暮らす人たちの日々の営みがにじみ出る、古きよき田舎の集落です。
市街地エリアや海がきれいに見える場所は、すさまじい勢いで開発されています。バブルの島では、数年前には想像できなかった変化が次々に起きています。
過疎化とバブルという二面性を持つ島はどこへ向かうのか。宮古島の自然豊かな環境に憧れて移住した私としては、この島の穏やかな暮らしがいつまでも続くよう願うばかりです。