カツオの切り身が、漁船から豪快に投げてふるまわれ、血の雨が降る「オーバンマイ」
宮古島と橋でつながる伊良部島のハーリーで毎年見られる珍百景です。
口コミで噂が広まり、見物客が急増している「オーバンマイ」についてまとめました。
伊良部島のハーリー
オーバンマイが行われるのは伊良部島、佐良浜漁港のハーリー。
「ハーリー」は旧暦の5月4日に沖縄の各漁港で行われる伝統行事。海神祭(かいじんさい)とも呼ばれます。ハーリーのメインイベントは木製の小さな船「サバニ」を漕いで速さを競う爬龍船(はりゅうせん)競争です。
航海安全と大漁への願いを込めて長年、漁師を中心に行われてきましたが、最近では観光客の見物人も増えています。
特に人気なのが伊良部島、佐良浜漁港のハーリー。
佐良浜は伊良部島の人口約2500人の集落。漁師町として古くから栄えてきました。
伊良部島、佐良浜漁港のハーリーは宮古のハーリーの中で最も盛大。ハーリーの日には朝早くから漁船に大漁旗が掲げられ、自治会の分会対抗の爬龍船競争で盛り上がります。
伊良部島の小学生、中学生は学校行事として毎年ハーリーに参加しています。
カツオオーバンマイ
伊良部島のハーリーのクライマックスは、大量のカツオの切り身が船から豪快に投げてふるまわれる「オーバンマイ」。
オーバンマイの語源は大盤振る舞い。カツオが舞い、血の雨が降る。これぞ珍百景と言える見応え十分の行事です。
お昼11時半頃、オーバンマイでカツオをゲットしようとカツオ船の近くに人が集まり始めます。
前の方に陣取るのはほとんどが地元佐良浜の人たち。伊良部大橋を渡って宮古島から来た島民や観光客がその外側を取り巻きます。
大量のカツオをゲットしようと、前の方に集まった人たちは大きなオケや段ボール箱、スーパーの買い物かごを持っています。汚れないようにレインコートを着て完全防備の人もいます。
お昼12時前、オーバンマイスタート。
4隻のカツオ漁船に積み込まれたカツオの切り身が豪快に振る舞われます。
カツオを投げるのは、漁師や子供たち。素手でカツオをわし掴みにして投げ続けます。
カツオと一緒にカツオの血の雨も降ってきます。躊躇していてはカツオはキャッチできません。
コツをわきまえている地元の人たちは器用に段ボール箱でカツオをキャッチしていきます。大声で「こっちこっち」と叫んでいる人もいます。
素手でキャッチしようと頑張っている人もいます。誰かがキャッチに失敗して落ちたカツオには人が群がります。
スピーカーから流れる運動会を思わせるBGM、地元の人たちが叫ぶ声、観光客の悲鳴。約20分間、漁港は異様な熱気に包まれます。
普通に購入したら500円はするであろうカツオの切り身が次から次へと投げてふるまわれます。オーバンマイでふるまわれるカツオの総重量は1トンにもなります。
珍百景という一言では語れない、大興奮の伝統行事です。
オーバンマイの開催日時や場所の詳細はこちらの記事にまとめました。
オーバンマイに参戦してみた
宮古島移住5年の私。「宮古島に住んでいるなら、オーバンマイは一見の価値あり」と聞いて伊良部島のオーバンマイに参戦しました。
オーバンマイが始まると、漁港の盛り上がりは一気に最高潮。投げる側も、受け取る側もみんな必死です。
段ボール箱を持った地元のおばさまたちは、やる気満々。おばさまたちの圧力にくじけそうになりながらも、私も必死にカツオに手を伸ばしました。
ふわっと投げてくれる漁師もいれば、剛速球タイプの漁師もいます。ふわっと投げたカツオはたいていダンボール箱組がゲット。剛速球系のカツオが来たときには、素手でもチャンスがあります。
実際にキャッチしてみると、カツオの切り身は見た目以上に重い!飛んでくるカツオの切り身は500グラムぐらいあります。キャッチするとズシンと重いです。
カツオはオーバンマイの直前まで冷蔵庫に入っています。キャッチしたカツオは思っていた以上に冷たかったです。
初体験の私は4つほどゲットできました。隣のおばさまの段ボール箱には、30切れぐらいのカツオの切り身が入っていました。
オーバンマイではカツオの切り身と一緒にカツオの血の雨が降ります。夢中になってオーバンマイに参戦した結果、気が付いたら顔にも手にもカツオの血がついていました。洋服もかなり汚れました。
オーバンマイが終わるとみんな汗だく。オーバンマイが行われるのは旧暦の5月4日。新暦では6月。伊良部島では最高気温が30度を超える時期です。日なたに長時間いると熱中症になりそうな暑さですが、オーバンマイの時間帯だけは地元の人も観光客も炎天下のカツオ争奪戦でハッスルします。
参加する側からすればオーバンマイは楽しいの一言。地元の人たちにも観光客にも開かれたイベントなので誰でも参加できます。参加料を取られるわけではありません。
いまどき、無料で何かをもらえるイベントなんてそんなにありません。正月や節分に神社で餅や豆の大判振る舞いが行われることはあっても、佐良浜で宙を舞うのはカツオ。
この異様な珍百景を見るだけでも大満足ですが、参加してみると本当に楽しいです。夢中になって、童心に帰って楽しめます。
オーバンマイの歴史
佐良浜は宮古島・伊良部島で最大の港街。今ではカツオ漁船は4隻になり、マグロ漁が中心になっていますが、かつては50隻以上のカツオ漁船がカツオ漁を行っていました。
遠洋漁業が盛んで、漁師たちは伊良部島のはるか南、パプアニューギニア近海に10カ月ほど滞在し漁をしていました。漁師が島に帰るのは1年のうち2ヶ月だけ。残りの10カ月は女性たちが島を守ってきました。
オーバンマイは古くから漁師や地域の人たちが守ってきた島の伝統行事。大漁を喜び漁を出来ることへの感謝の気持ちの表れです。
漁船からカツオの切り身を振る舞うオーバンマイには、大量の喜びをわかちあおうという思いが込められています。
2015年に伊良部大橋が開通し、宮古島と伊良部島が橋でつながりました。伊良部大橋の開港後、伊良部島には観光客が急増。佐良浜のハーリーにも多くの人が来るようになりました。
カツオ船の数が減り、観光客が増え、ハーリーの形は少しずつ変わってきていますが、大漁に感謝し航海安全を願う漁師たちの気持ちは今も昔も変わりません。
伊良部島らしさ
宮古島にはたくさんの集落があります。宮古の住民は「島の人たち」とひとくくりにされがちですが、同じ宮古島・伊良部島でも、集落によって人柄や性格に特徴があります。
特に伊良部島の人たちは特徴的。豪快で、頭に血が上りやすく、人懐っこい性格。「人見知りなんて言葉は聞いたことない」というタイプの人たちばかりです。
沖縄の中でも宮古の人たちは野蛮だといわれています、宮古の中でも伊良部島の人は野蛮だといわれています。
伊良部島の人たちは行動力があり、パワフルで、頼りがいがあります。「野蛮」という言葉にはマイナスの響きがありますが、伊良部島の人たちはとても魅力的です。
伊良部島の中でも漁師町、佐良浜の人たちは特に豪快でパワフル。誰とでもすぐ仲良くなります。敬語は使いません。無愛想ですが愛があります。
集落の絆がとても強く、佐良浜に誇りを持っています。「どこの出身か?」と聞かれれば「沖縄」でも「宮古」でも「伊良部」でもなく「佐良浜」と答えます。
オーバンマイは離島の離島、伊良部島の佐良浜の人たちだからこそ続けてこられたものだと感じます。
SNSが普及し、炎上を恐れて何でも自粛しがちな現代社会。
「食べ物を投げるな」「衛生面は大丈夫か」「海に落ちたらどうする」と批判されても「はぁ?」と一言で一蹴できる強さが佐良浜の人たちにはあります。
元祖珍百景
宮古島の元祖、珍百景と言えば、島の北側、島尻集落に伝わる「パーントゥ」。集落の厄を払うため、泥を身にまとった「パーントゥ」が、集落内を歩き、住民の顔に次々と泥を塗っていきます。
集落の神行事として細々と行われてきましたが、パーントゥの見た目のインパクト、泥の匂いの強さが噂になり、今ではたくさんの見物客が訪れます。
泥を塗られる覚悟で、汚れてもいい服装で来る観光客もいますが、パーントゥのことをよく知らずに来て「泥を塗られた」と文句を言い、クリーニング代を請求する人も出始めています。
伊良部島のハーリーでトラブルがあったという話は聞きませんが、年々見物客が増えていて、いつトラブルが起きてもおかしくありません。
2019年には全国放送のナニコレ珍百景に「沖縄・伊良部島に血の雨か降る!?なのに住民が港に大集合&大喜びの謎」として紹介されました。
興味本位で見に来る人が増えればトラブルのリスクは高まります。
オーバンマイに参加するには
ハーリーは毎年旧暦5月4日に行われます。沖縄の行事や神事は旧暦で行われるものが多いです。
旧暦は新暦と1ヶ月以上ずれています。旧暦5月4日は2023年は6月21日・水曜日。2021年は6月9日・日曜日です。
ハーリーは旧暦で行われる行事なので、平日開催になることも多いです。
伊良部島のオーバンマイには旧暦の5月4日に佐良浜漁港にいれば、誰でも参加できます。
カツオと一緒に血の雨も降ってきます。汚れてもいい服装で、段ボール箱などカツオをキャッチする道具を持参すればより楽しめます。
オーバンマイはお昼前の時間帯に行われます。きちんとタイムスケジュールが決まっているわけではありませんが、例年の感覚だと11時頃漁港に行けば間に合います。
宮古諸島のハーリーで最も盛り上がる伊良部島のハーリー。カツオ舞い血の雨が降る珍百景は、一見の価値ありです。