下地島空港開業の弊害|バブルの宮古島で起きていること

2019年3月30日。下地島空港にターミナルが開業し、定期便が就航します。

宮古島の人口は5万4000人。小さな島に2つの空の玄関口ができることになります。

宮古島初のLCC就航、国際線就航で話題の下地島空港ですが、島民全員が下地島空港の開業を喜んでいるわけではありません。

乱開発が進む島で何が起きているのか。下地島空港開業を喜べない理由をまとめました。

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変わりゆく島

ここ数年、宮古島の観光客が急増しています。

2012年頃まで年間40万人台だった観光客数は、2018年に100万人を突破しました。

宮古島観光に大きなインパクトを与えたのが、2015年1月の伊良部大橋開通。

橋の開通以降、東京、大阪、名古屋から宮古島への直行便が次々に就航。海外からのクルーズ船寄港も急増しました。

下地島空港から宮古島までの所要時間は、橋の開通以前は、車とフェリーを乗り継いで約1時間でしたが、橋の開通後は車で30分。伊良部大橋の開通後、下地島空港開業の話は一気に進みました。

JALとANAのパイロット養成訓練撤退で閑古鳥状態だった下地島空港に、三菱地所が新ターミナルを建設。成田空港、関西空港、香港からの直行便就航が決まりました。

下地島空港は宮古島第二の空の玄関口として「空港からリゾートはじまる」をコンセプトに新たな一歩を踏み出しました。

乗客の大半は観光客。空港の建物全体がリゾート感を演出しています。

下地島空港開業で更なる観光客増加が見込まれますが、島内では急増する観光客に戸惑いの声も聞こえます。

観光客急増の弊害

観光客急増に対応するため、宮古島ではリゾート開発が進んでいます。

下地島空港から伊良部大橋へ向かう海岸道路沿いのリゾート用地は、特に開発が目立つエリアです。

5年前までサトウキビ畑しかなかった場所には、リゾートホテルやペンション、カフェ、別荘が乱立。地価が高騰し、地元住民はとても手が出せない価格で本土企業が土地を買い漁っています。

「宮古島バブル」と言われる好景気の島。島内にはホテルやアパートの建設現場が溢れています。有効求人倍率はついに2倍を超えました。宮古島は人手不足が深刻です。

数年前まで750円~850円だったアルバイトの時給は900円台に。時給1000円の求人情報も見かけるようになりました。下地島空港の売店のアルバイトの時給も1000円です。

離島の宮古島では働き手の数が限られます。建設業者やホテル業者は島外から積極的に人材を確保しています。建設業者やホテル業者が島外から来る従業員のためにアパートの部屋を抑えているので、宮古島には賃貸空き物件がほとんどありません。

空き物件不足に便乗して、家賃を値上げする業者も増えています。好景気だからといって従業員の給料が上がるわけではありません。宮古島の島民は、給料は上がらないのに家賃が上がるという宮古島バブルの弊害に苦しんでいます。

下地島空港の開業で観光客が増えれば、この流れにさらに拍車がかかります。

宮古島の観光客急増の弊害についてはこちらの記事にさらに詳しくまとめています。

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観光客の質

ここ数年宮古島の飲食店経営者からよく聞くのが、観光客の質の低下。

宮古島へのアクセスが不便だった時代。観光客は高い航空運賃を支払って、長い移動時間をかけて宮古島に来ていました。

航空運賃の高さと移動時間の長さは「文化も風習も違う沖縄の離島に旅行している」という実感を得るには十分なものでした。

飲食店で注文したものが出てくるのが遅くても、店員が宮古島の人にありがちな無愛想な接客態度でも、文句を言う人はほとんどいませんでした。

ところが、宮古島への直行便が充実し、本土から那覇までのLCC路線が充実したことで、宮古島はより身近な場所になってしまいました。

関西空港から宮古島までは直行便で約2時間。都会に住んでいる感覚のまま、宮古島に旅行できる時代が来てしまいました。

観光客は、宮古島の居酒屋にも、都会と同じ感覚のまま入ってきます。文化も風習も違う南国の離島におじゃましているという感覚は全くありません。都会の居酒屋と同じサービスの質、スピードを求め、それを満たさなければ容赦なくクレームをつけます。

島の人たちが築き上げてきた、良くも悪くも許し合う文化は、失われつつあります。

下地島空港開業で、宮古島はさらに身近な場所になります。観光客の質は下がるばかりです。

おもてなしの質

宮古島のホテル業界の人手不足は深刻です。

ホテル業界は離職率も高く、どのホテルも人材の確保に必死。毎日必ずどこかのホテルの求人情報が地元の新聞紙面に掲載されています。

人手不足があまりに深刻なので、宮古島のホテルは、業務を回すための最低限の人数を確保できれば御の字という考えの所が大半。お金と時間をかけて一流のホテルマンを育て、サービスの質を高めようというホテルはごく一部です。

ここ数年、宮古島のホテルのサービスの質は目に見えて下がっています。高い宿泊料金を取るリゾートホテルでも、従業員の質が低く、施設の質に従業員のレベルが追い付いていないところも多いです。

せっかくの宮古島旅行だからと高い宿泊料金を支払ってリゾートホテルに宿泊したのに、従業員の接客態度が悪く旅の思い出が台無しになったという話をよく耳にします。

極端に言えば、宮古島の大手リゾートホテルで、従業員の質も含めて一流ホテルだとオススメできるのは宮古島東急ホテル&リゾーツだけ。他の大手リゾートホテルはギリギリの人数でなんとかホテルを回している印象です。

島民の反応

島民は必ずしも下地島空港の開業を歓迎しているわけではありません。安い航空運賃で本土や海外に行けるメリットはありますが、それ以上に「宮古島が変わってしまう」という危機感に似た感情を抱いている人が多いです。

沖縄本島から300キロ離れた離島、宮古島。今の60代が若い頃は、那覇に行くにも船で12時間かかったようです。

宮古島は沖縄の離島の中でも特に閉鎖的な島です。石垣島と比べると移住者の比率は圧倒的に少なく、島の住民の9割以上は地元出身者。島の人たちは、変化を好まず、特に外からの変化を拒む傾向があります。

下地島空港の開業で島が変わってしまうことを、マイナスに捉えている人も多くいます。島の人たちは島を豊かにしてくれる変化は歓迎しますが、島の利益を独占しようとする変化には手を貸しません。

下地島空港開業は、日本を代表する大企業の三菱地所が関わる一大プロジェクト。島民がどう思っていようが関係ないと言ってしまえばそれまでですが、島民に考えに寄り添う姿勢も大切だと感じます。

まとめ

ニュースでは明るい側面ばかりが注目されていますが、下地島空港開業は手放しに喜べるものではありません。

下地島空港の旅客数の目標は年間55万人。三菱地所の計画通りに進めば、空港開業は宮古島にこれまでにないほどの大きな変化をもたらします。

10年後、20年後の島の姿はどうなっているのか。下地島空港開業がもたらす変化が、島民にも観光客にも歓迎されるものであることを願うばかりです。

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